小川哲著 ”地図と拳” ★
【 第168回直木賞受賞作】
【第13回山田風太郎賞受賞作】
「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。
ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。
叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。
地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。
奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。
「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。
ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。
日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。
畳み込むように登場人物が次々と増えてゆく導入部に、
初老のおばさんは、これはダメかも、、、と、あきらめモードに入りかけたときには、、、
舞台は満州、壮大な歴史小説に、完全に引き込まれておりました、、、
混迷を極める、今、この時に、
細川や明男のようなリーダーがいてくれたならと、、、
巻末の長大な参考文献の数が、この物語のリアルな深淵を物語っているように思えて、、、
読み終えた本をしばらく、茫然と眺めておりました、、、
★★★★★
心に残った一文を、以下に本文より転記します、
李家鎮で成し遂げたものを全て奪っていった日本人のことが、林には許せなかった。
奴隷のような労働をしなければ生活できないことも許せなかった。毎日が屈辱だった。
生活を人質に取られ、自分たちが長い時間をかけて作り上げた歴史を自らの手で壊し、
日本人のための建物を作ることを余儀なくされたのだった。
「もう我慢できないのです。住処を奪われ、飢えと戦う日々を送りながら、日本人のために
温かい風呂や取っ手をひねれば、水が流れる便所を作るだけの日々にもう耐えられません」
「まだ死ねないからな、日本鬼子が球遊びをする場所を作るため、さっきまで土を均していたんだ」
「野球場なら大連にもありました。日本鬼子が試合をすると言うので、草むしりをさせられたのです。
林檎の木を200本も切り、山を削り取ってまで作る価値があったとは思いませんでした」
「放っておけば、そこら中の高粱畑が玉遊びや水遊びのために潰されることになるだろう」
僕は物心ついた時から、喧嘩が大嫌いです。
この場には軍人も多いのですが、あえて言わせてもらいます。
暴力によって何かを解決しようとする人は苦手でしたし、今でもそういう思いは持っています。
ですが、この世から「拳」はなくなりません。家の中からもなくならないし、街の中からも
なくなりません。この国は長らく戦場で、今もどこかで兵士たちが誰かと戦っているでしょう。
なぜこの国から、そして世界から「拳」はなくならないのでしょうか。
答えは「地図」にあります。世界地図を見ればすぐにわかることですが、世界は狭すぎるのです。
僕たちが生活できるのは、この広い地球の3から5%ほどなのです。
人類が戦争するのはこのためです。僕たちは、ごく一部の居住可能な地を求めて戦うのです。
戦うために必要な資源を求めて戦うこともありますし、戦うことを避けるために
戦うこともありますが、結局のところに、人類は、自分たちの無力さのせいで、
戦うことを余儀なくされてしまっているのです。
この本は、市民図書でお借りしました。
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