川上未映子著 ”夏物語”
内容
大阪の下町に生まれ育ち、小説家を目指し上京した夏子。
38歳になる彼女には、ひそやかな願いが芽生えつつあった。
「自分の子どもに会いたい」――でも、相手もおらんのに、どうやって?
周囲のさまざまな人々が、夏子に心をうちあける。
身体の変化へのとまどい、性別役割をめぐる違和感、
世界への居場所のなさ、そして子どもをもつか、もたないか。
悲喜こもごもの語りは、この世界へ生み、生まれることの意味を投げかける。
パートナーなしの出産を目指す夏子は、「精子提供」で生まれ、本当の父を探す逢沢潤と出会い、
心を寄せていく。いっぽう彼の恋人である善百合子は、出産は親たちの「身勝手な賭け」だと言う。
「どうしてこんな暴力的なことを、みんな笑顔でつづけることができるんだろう」
苦痛に満ちた切実な問いかけに、夏子の心は揺らぐ。
この世界は、生まれてくるのに値するのだろうか――。
芥川賞受賞作「乳と卵」の登場人物たちがあらたに織りなす物語は、
生命の意味をめぐる真摯な問いを、切ない詩情と泣き笑いの極上の筆致で描き切る。
ずいぶん前に読んだ「乳と密」に、私はさっぱり共感できないままでしたが、
同じ豊胸手術をテーマにした下りをさらに掘り下げてあります。
淡々と進むストーリーに時折、、、
かつて、心無い男性編集者に浴びせられた罵詈雑言や、
産後にひどく体調を崩した友人が夫に「妊娠も出産も自然なことだろ?、うちのおふくろも、
ほかの人もみんなできてることなのに、おまえは大げさなんだよ」と笑って言われたとき、
「そのときわたしは決めたんだよね、いつかこの男が癌でもなんでもいいから苦しんでいる時にね、
死ぬ間際にでも隣に立って見下ろして、同じことを言って笑ってやろうって」
こんな、息詰まるような毒を含んだエピソードが点在していて、
読了するのに、私はかなりの時間を要しました。
以下に、心に残った一文を本文より転記します、、、
「でも今思うと子供いなくて良かったなぁて、わりと思いますよ。
もちろん最初からいないんだから比べようはないんだけれど。周りを見てるとね、
ああ、わたしこういうのに関わらなくて良かったなぁって思うこと多いですよね。
あんまり大きな声じゃ言えないけれど。もちろん幸せな人もいるんでしょうけど
やれ熱だ病気だって振り回されて仕事との板挟みになって文字通りボロボロになって働いてますよ。
うちみたいに保証がしっかりしてるところでもそうなんだから、
よそなんかもう仕事を続けるのとか、基本的に無理ですよね。
みんなストレスすごくって、旦那の愚痴ばっかりで。そういう記事とか本とか多くないですか?」
「子どもは、自分にとって最高の存在で、それで最大の弱点。
それが日に日に自分の外で大きくなって、事故とか病気で死ぬかもしれないことを一瞬でも考えると
息もできないくらいに怖い。子供って恐ろしい存在だよね」
「ボイジャーは今から40年ほど前の夏に打ち上げられた宇宙探査船探査機です。
1号と2号がいて最初に2号、少し遅れて1号が飛び立ちました。
僕らとほとんど同い年ということになるのかな。大きさは、牛一頭ぐらいで、今は恐らく
地球から二百億キロくらい離れたところを飛んでいると思います。
二百億キロって言うのは、時速三百キロの新幹線で走って七千六百年、「もしもし」と電話で
呼びかけてから『はい』と返事が聞こえるまで一日半くらいかかる距離って例えがありました。
ボイジャーは行く先々から、これまでいろんなものを撮影して、データを送ってきているんですね。
たくさんの衛星、土星の輪、有名なのだと木星の黄土色の巨大な渦の写真は、みんな見たことが
あるかもしれないですね。太陽系で太陽から1番離れたところにある海王星の撮影にも成功しました。
そして35年をかけて太陽系を抜け出しました。
これはちょっとすごいことですよね。人が作ったもので地球から一番遠くにあるものです。
もともと主要なミッションというか役割は随分前に終えたんですけれど、
でもボイジャーは地球と交信を続けながら今もずっと飛行を続けているんです」
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