浅田 次郎著 ”日本の「運命」について語ろう ” ☆
内容紹介
私たちは、幸せになれるのか。
衆より個の利益を、未来より現在を大切にする今の日本。
150年で起きたこの国の「変容」を、知の巨人が深い洞察力と明快な論理で解き明かす。
驚きと発見に満ちた、白眉の日本人論。
歴史を学ぶ意味は二つあります。
ひとつは現代につながる考え方や社会のありようを知ること。
そしてもうひとつが、平和な時代が続けられなくなった理由について考えることです。
すなわち、それは国家と国民の運命を知ることなのです。(本文より)
歴史を学ぶ、それこそが、明るい未来を切り開いてゆくために、とてもとても大切です、、、
わたしの大好きな作家ベストスリーにランクインする著者が、
平易な言葉で、歴史を、日本人の姿を、教えてくれます、、、
以下に、心に残った一文を転記します。
中国と日本の相続の違い
徳川将軍って、体が弱い、頭が弱い、あるいは偏屈。まともな人物が少ない感じがします。
十五代に至るまで、英明と思えるのは、吉宗ひとりでしょう。
徳川と比べて愛新覚羅は三百年に十二代の皇帝が続きます。
幕府は三十年以上も短いのに十五代も交代しています。
歴代の清朝皇帝はまず体が丈夫です。しかもこれといって、愚昧な皇帝はいません。
これは跡取りの選別方法の違いでしょう。
日本は、、、
日本は昔から長男相続です。
農耕民族にとって強力なリーダーシップだとかずば抜けた能力などはあまり必要ない。
それよりも一族にとって怖いのは、田畑をめぐる相続の揉め事でしょう。
相続人を長男と決めておけば揉め事を避けられる。
地域の中で協力してやっていくことが大事なので、突出したリーダーシップは必要ないのです。
日本でも地域的には長子相続という場所もあります。男女にかかわらず先に生まれた者が相続する。
だから女子でも相続権を持つという地域があるのですが、
実はこれがいいんですよ、長女に婿をもらうとなると、親が有能な人間を選ぶ事が出来ます。
一方、清朝の相続は皇帝の指名です。皇帝はできるだけたくさん子どもを作ってその中から決めるのです。
騎馬民族は、指導力、体力がなくてはならなかったのです。
親が跡継ぎを指名するとなると、それぞれの王子を担いだ派閥争いが起こりそうですが、
清王朝には、「密建の法」という制度があり、皇帝は何十人もいる王子を観察しているあいだ、
こいつは良いとか、こいつはダメとか決して口にしてはいけない。
世継ぎたる王子の名前を書いて木箱に入れ、
玉座の後ろの「正大公明」の扁額の後ろに隠しておくのです。そして、先帝が崩御したとなると、
高官たちがここに集まって、王子の名を知るのですから、派閥争いの余地などないのです。
徳川幕府は、二百六十年以上、安定した知世が続いたのですが、この間外国と戦争をしていません。
ということは戦死者がいない。
二百六十年間、戦争をしなかった政権など、世界中、有史以来どこを探してもありません。
つまり徳川幕府が優れていたと言っていい。
秀吉も家康も、禁教令を出してキリシタンを弾圧し、鎖国へとつながっていきます。
これは、安全保障上の国策でもありました。
15世紀半ばから、アジア各地、南北アメリカなどへ植民地を求めて、
ヨーロッパの海外進出が始まっていたからです。
植民地を造る時、先兵としてまず派遣されるのがイエズス会の宣教師でした。
彼らがおびただしい情報を本国に送って、その状況を理解したうえで最終的には植民地にしてしまう。
それが常套手段であると、秀吉も家康も分かっていたから、キリシタンを弾圧したのです。
したがって、これは、安全保障政策だったという評価もできるでしょう。
参勤交代の廃止により、大名がお金を使わなくなったために経済が停滞したのです。
大名行列は、家来だけでなく中間や荷担ぎといった人々を大量に雇っていたのです。
そういった奉公人たちの仕事が一斉になくなってしまいました。
更に、江戸詰め屋敷の家臣も不要となり低位の侍たちはリストラされ、こうして、
大失業時代が来てしまいました。その結果、失業した人たちが江戸で遊民化してしまう。
道中の宿場が荒廃してしまう。社会経済が思いがけずバラバラに崩壊してしまったのです。
いつまでも「祖法を枉げず」ではやっていけないというのは、理屈としては正しいのですが、
祖法に従ってきた時間が長ければ長いほど、築かれた社会は祖法を原則として出来上がっているわけです。
だから、やめた場合にどんな影響があって、どこで何が起こるかがわからない。
怖いことですが、現代にも言えるでしょう。
参勤交代の廃止は、徳川幕府にとって致命傷になりました。
幕府の求心力だけでなく江戸の経済が崩壊してしまったのです。
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