椎名 誠著 ”岳物語”
内容(「BOOK」データベースより)
山登りの好きな両親が山岳から岳から名付けた、シーナ家の長男・岳少年。
坊主頭でプロレス技もスルドクきまり、ケンカはめっぽう強い。
自分の小遣いで道具を揃え、身もココロもすっかり釣りに奪われてる元気な小学生。
旅から帰って出会う息子の成長に目をみはり、悲喜こもごもの思いでそれをみつめる「おとう」…。
これはショーネンがまだチチを見棄てていない頃の美しい親子の物語。著者初の明るい私小説。
初めての、シーナ。
このタイトルは見知っておりましたが、
1980年代の大ベストセラーであったことを、知りませんでした、、、
元気いっぱい、あばれはっちゃく、ガキ大将の岳は、
すべての大人たちの夢と希望の星、あこがれの的。
夢中になって読み進めましたが、次第に、うっすらと影が、、、
実名の実話、、、
読者は、だれもがみな、岳に会いたくなる、、、
これは、、、
これは、つらい、、、
人びとの夢の少年を生きるのは、、、
生身の岳君には、荷が重すぎる、、、
そして、、、もうひとつ、、、
「きんもくせい」の子どもたちにも、この本は、どんなにか、重荷だろうか、、、、と、、、
素晴らしい一冊に、完全には酔えないおばさんでした、、、
野田知佑というお方のことも、カヌーイストということくらいしか存じ上げませんでしたが、
この本を読んで度肝を抜かれました、、、
以下に本文より転記します。
野田さんはウェットスーツを着て川の中に入っていった。五月上旬の渓流はまだ冷たく澄んでいた。
野田さんは間もなく七匹のウグイと一匹の大きな鯉を捕まえてきた。
ぜんぶ手づかみで獲ってきてしまうのだ。
・・・
初めてこの荒業を見た人はしばらくの間何かの手品を見たような顔をするのだ。
「野田さんはガタロウですたい」
私たちの車を運転していた吉岡青年が言った。ガタロウとはこのあたりの方言でカッパという意味である。
焚火の正面に座って、野田さんがハーモニカを吹きはじめていた。
昔若い頃、パリの街角でギターを弾きながら旅の金をせしめたこともある、という強者だけあって、
その曲は夜の雨上がりの河原の上で、黙ってボンヤリ聞いているだけでは申し訳ないような、
やさしさとやるせなさにみちた懐かしいうたばかりだった。
それからまたつかれたり、なにか面倒な気分になってしまったらずっと黙っていてもかまわない、という、
濃淡のある時間のすごし方を自然に教えてくれた。
岳にとって、野田知佑という人はおそらくそういう男であるに違いなかった。
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