浅田次郎著 ”一刀斎夢録” ☆
内容(「BOOK」データベースより)
新選組最強の剣士・斎藤 一は死に場所を求めるごとく戊辰の戦場を転戦し、
ついに警視庁抜刀隊の一員として西南戦争を迎える。
そこで待つ、数奇な縁で結ばれた少年隊士との慟哭の運命――。
生死の相克が胸をうつ、浅田版新選組の真骨頂!
2011年、初版
傑作『壬生義士伝』にも、完全に打ちのめされましたが、
浅田版、新選組三部作のひとつ。
作中、「講談師、見てきたような嘘をつき」と語る、まさに、そのまま。
講談師、浅田次郎の本領発揮。
「中原の虹」にも、完全に圧倒されましたが、
またしても、見事な彼の術中にすっかり嵌ってしまいました、、、
素晴らしい本をガイドして下さった、落合様、ほんとうにありがとうございます。
★★★★☆
以下に、文中より心に残った、涙した一文を転記します、
「おぬしのいう天然理心流の大先輩はの、
のちの世の弟子に語り継ぐほどたいそうな人物ではなかった。
近藤は劣等感のかたまり。土方は見栄坊。沖田は凶暴きわまりない野犬のごとき男であった。
その様な連中の話を聞かせれば、おぬしの件の障りになる」
嘘でも偽りでもない思ったとたん、盃を上げたまま手が震え始めて、
梶原は覚られまいとあわてて酒を飲み下した。
そこで、久米部のへらへらじゃがの。じつは笑うている顔に死相が宿らぬのはたしかなのじゃ。
そうこう思えば、久米部の顔に死相が兆したことは一度もなかった。
あかんあかんと言いながら、ずっとへらへら顔であった。
笑う門には福が来るかどうかは知らぬが、笑うておうるちは死神も遠慮する。
どうも今の若者たちは、国家の行く末をわが命の行く末とは思うていないようじゃの。
国と民との命運が一蓮托生であるという、当たり前のことを忘れておる。
おのれの出自を僻んでいたせいか、土方はめったに里の話をしなかったのだが、
日野の在所に親子ほど齢の離れた、目の不自由な兄がいるということは噂に聞いていた。
末っ子の土方をたいそうかわいがってくれたそうな。
親は早逝していたそうじゃから、実に親代わりだったのであろうよ。
「トシヤーイ、トシヤーイ」
たしかに父親とも見える老いた兄は、菜花の波の底から立ち上がると、
まるで遠吠えでもするように見えぬ弟の名を呼び続けた。
そして杖を振り回してやみくもに歩み、また畦からころげ落ちた。
「あにさん、歩くな、歩くな、そこにじっとしておれ」
土方は馬から飛び下りると、鞭を投げ捨てて駆け出した。
衆視の中を人なきがごとくに、土方は枯田を走った。
やがて兄と抱きあうと、まるで心中でもするように黄色の海に身を躍らせての、
それきり見えなくなってしもうた。
「大丈夫か」
様子を見に行こうとする大石を、わしはやめよととどめた。
わしには見えたような気がしたからじゃ。
畑に仰向いた兄の胸に、土方がすがりついて泣くさまがの。
そのような姿を、誰に見せられよう。
努力精進よりも肝要なものがある。それは渇えじゃ。いつかかくありたしと願いながらも、
努力精進すらままならぬ貧乏人はひたすら飢え渇するほかはあるまい。
その拠るところも捉むものもない飢渇こそが、やがて実力となり技となる。
持たざる者ほど、持っておるのだ。
水も肥も与えられずに、それでも咲かんと欲する花は、雨を力とし風すらも肥とする。
そうしてついに咲いた花は美しい。
『・読売新聞 4月20日(日)9時27分配信
新選組・斎藤一「書記兼戸口取調掛」…名簿発見
明治時代初期の警視庁第六方面第二署=現小松川署(江戸川区)=の名簿が見つかり、
幕末の新選組隊士、
斎藤一(はじめ(1844~1915)とみられる名前が記されていることがわかった。
剣豪でならした斎藤が明治維新後、警視庁に勤めたことは知られており、
専門家は「斎藤の後半生を知る貴重な資料」とみている。
斎藤は江戸で生まれ育ち、新選組では、局長の近藤勇、副長の土方歳三らに次ぐ存在だった。
戊辰戦争では会津藩の指揮下で新政府軍と戦った。
維新後、警視庁で諜報(ちょうほう)活動に従事し、
西南戦争などに参加したことは伝承から知られていた。
名簿は霊山(りょうぜん)歴史館(京都市)が、
明治期に警視庁に勤めた関係者の子孫から昨年末に入手した。
縦24センチ、横16センチの冊子状で、同署員174人の名前を記載。
斎藤は他の4人とともに「書記兼戸口取調掛」という役職の欄に記されていた。』
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