梨木香歩著”春になったら莓を摘みに” ☆
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内容
「理解はできないが、受け容れる」、それがウェスト夫人の生き方だった。
「私」が学生時代を過ごした英国の下宿には、女主人ウェスト夫人と、
さまざまな人種や考え方の住人たちが暮らしていた。
ウェスト夫人の強靭な博愛精神と、時代に左右されない生き方に触れて、
「私」は日常を深く生き抜くということを、さらに自分に問い続ける
―物語の生れる場所からの、著者初めてのエッセイ。
”私”が、サリー州に滞在していたときのこと、、、
庭にピーナッツを撒くと、大慌てで二匹のリスがやってきて、
ものすごい勢いで芝生を掘り返し、あちらこちらにピーナッツを埋め込む。
お尻を高く挙げて無我夢中で掘り込む様子がいじらしい。
そのようすを、少し離れたクッキングアップルの木の上から見ていたマグパイ(カラスの仲間)が、
すかさずやってきて、リスが埋め込んだ場所を記憶しており(当のリスよりも正確に)、嘴でほじくり出す。
次から次へと埋め込む作業に夢中になっているリスは
マグパイにすぐには気が付かない。それでもいつか気が付く。呆然と二本足で立ちつくす。
だがマグパイの方が獰猛なので、どう抗議していいものか分からない。
マグパイもその辺のことはよく分かっているので厚かましくでる。
やはり、ここは。決心したリスはマグパイに抗議に近寄る。
マグパイはふわりと大きく飛びあがり後ずさりする。飛び去ったりはしない。
気弱なほうのリスは(個体差があり、一方は比較的気が強い)すぐにあきらめて、
おお、そうであった、大事な仕事を失念しておった、というふうに
突然気持ちを切り替え再びピーナッツ埋めに精を出す。
冒頭のこのくだりを読んだだけで、ワクワクしてくるのでした、、、
それは、なにか、大切なものとの出会いの予感の瞬間でもあります。
そして、下宿先での大家と下宿人の三人の暮らしぶりは、、、
そういうふうに日々何かしら話題があり、
食事時には誰かが何かを作り誰かがそれにプラスアルファし、誰かが皿を片づける。
―――なんてピースフルで静かで思いやりに満ちた美しい生活。
完璧なトライアングル。
―――なんて、すてきな暮し、、、うらやましすぎ、、、
あるとき訪れた、フレンドリーでシンプルなレイク・ディストリクトのあるホテルにて、、、
四、五日逗留している人が主で、ここを拠点にして周囲をトレッキングする人、
あるいは、毎年ただここでぶらぶら過ごすというお年寄りもいた。
人を受け容れる気配にあふれた温かさ、
かといって、必要以上に好奇心をあらわにしたりしない適度の親密さ。
この絶妙の距離感が心地よい。一番好きなタイプの英国人の集まりだった。
―――んんん~~!、、、英語ができたら、絶対に、泊りたいぞ、、、
”父は「銃を持つことができなかった」”、このひとことで始まった、ウェスト夫人の思い出話、、、、
そして、日本で空港へと向かう車中、隣り合った年配の男性の昔話。
カリフォルニア生まれの彼は、戦争中、強制収容所に送られる。
預金の凍結、差別、裁判、拷問、殺害、監獄、知人の自殺、終戦、マッカーサーの通訳、、、
その驚愕の経験談には、ただ、言葉を失うばかり、、、
ある日、”私”は、パブで数人の日本人グループと、地元客とのやり取りを耳にする。
従軍慰安婦問題、被爆国、大英博物館は略奪品の倉庫、、、
そういう互いの過去の所業をあげつらって
損害の大小を比較しあうような議論は本当に不毛だ。
・・・
「敗戦国のくせに経済大国にのし上がった」国民への嫉妬と
黄色人種への嫌悪の混ざったコンプレックスであったり、
一方では白色人種とその文化への、、、
”私”は、PEI(プリンスエドワード島)へと向かう。
その車中で人種的偏見のような経験をする。
モンゴメリは、世界一美しいところ、と彼女は自分の故郷を賞賛して憚らない。
エミリシリーズの中でも、しつこいぐらいに主人公の自分の家系についての誇りと身内びいきが続く。
それからPEIへの偏愛。自分に繋がるものたちへの過度の賛美は、
第一次世界大戦時での彼女の言動を見ても明らかなように、容易にナショナリズムに結びつく。
しかし彼女にはそう流れてもおかしくはない切羽詰まった事情があった。
大騒ぎして自分を見失って、動揺したりすることは、決してなく、
さまざまな出来事を、自分なりに、すんなりと、でも、きっちりと受け止めて、、、、
並外れた知性と理性の持ち主。
地味だけど、ときどき、びっくりするほど
きらきらと輝き始める瞳を持った友達と出会えた気持ちです。
こんなすてきな出会いが、読書のたのしみのひとつです、
★★★★☆
®2008年にアップしたことのあるリユース記事です
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きぬえさんのご紹介で、この本の魅力・・
うんと伝わってきましたー。
梨木さんの小説は読んだことがないのですが、
このエッセイ、かなり惹かれます。
連休に読んでみようっと。
たしかに本って 出会いですね♪
投稿: tomo | 2008年10月30日 (木) 11:32
わたしも、読んだことないんです、(^^ゞ
三浦しをんさんのブックガイドで紹介されていた本を、
最近つぎつぎと読んでいて、これもそのうちの一冊です。
とっても、ステキなエッセイでした、(^-^)
投稿: きぬえ | 2008年10月30日 (木) 20:11
梨木香歩さん、好きなので、読んでみたい~
ゆっくり本の時間作りたい。
きぬえさんもtomoさんもお忙しいのに、
いっぱい本読んでてすごいな~って思います。
投稿: akko | 2008年10月31日 (金) 10:11
tomoさんは、ともかく、わたしは、ヒマだから~、(^o^)
それより、akkoさんこそ忙しいのに、よく本を読む時間があるよ~、、(@-@)
・・・梨木香歩さんだって、わたし、知らなかったし、、、(^^ゞ
彼女の本でおススメがあったら、こんど教えてね、(^-^)
投稿: きぬえ | 2008年10月31日 (金) 19:31