新田次郎著 “孤高の人” ☆
内容紹介
昭和初期、ヒマラヤ征服の夢を秘め、限られた裕福な人々だけのものであった登山界に、
社会人登山家としての道を開拓しながら日本アルプスの山々を、
ひとり疾風のように踏破していった“単独行の加藤文太郎"。
その強烈な意志と個性により、仕事においても独力で道を切り開き、
高等小学校卒業の学歴で造船技師にまで昇格した加藤文太郎の、交錯する愛と孤独の青春を描く長編。
新潮文庫の100冊より、実在の人物を描いた山岳小説。
超人的な登山家でありながら、
不器用で朴訥な人柄の山男、加藤文太郎に惚れてしまいました、、、
この猛暑の中、
過酷な冬山が時折見せる、神々しいばかりの荘厳な風景を
読む者の目の前に展開してみせる見事な筆力。
まったく登山に興味のない私をも、虜にする素晴らしい一冊。
★★★★☆
以下に本文より、、、
槍ヶ岳の岩は、彼が想像していた岩ではなく地球の骨であった。
地球の骨の突出部分が歳月と風雪を超えて彼の目の前にさらけ出されているさまは、
むしろ悲壮でさえあった。
加藤は雪の上に起き上がった。
「えれぇこった」
彼は茅野駅から道連れになった老人の言葉を思い出した。
「えれぇこった、ほんとにえれぇこった」
そう言いながら歩き出すと、不思議に気持ちが落ちついて来る。
気持ちが落ちついて来ると、風の音がよく聞えた。
突風が起こる前には、瞬間的に風速が急減することや旗をふるような音が遠くですることや、
部分的に、噴射状の飛雪が風上で起ることなどをみとめることができた。
突風が起こりそうな予感がすると、
彼はいち早く、ピッケルのピックを雪面に打ち込み、身を伏せて、風の通過を待った。
突風が去ると、彼はゆっくり立ち上がって、
「えれぇこった、えれぇこった」と言いながら歩き出した。
もはや、加藤は風に吹き飛ばされることはなかった。
そして加藤は、硫黄岳のいただきに立って、
二度とふたたび、ちくしょうめという、不遜のことばを山に向かって吐くまいことを誓った。
・そして、もう一冊、著者の本で、打ちのめされたのが、、、こちら、、、
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