美輪明宏著 “紫の履歴書” ☆
内容(「MARC」データベースより)
昭和43年から44年にかけて出版され、
次々と再版を重ねて当時のベストセラーの仲間入りをしていた、美輪明宏の自伝。
NHKの紅白で、美輪明宏の「ヨイトマケの唄」を聴いてしばらくは、
感動のあまり、真っ白になってしまいました。
しかも、この歌を作ったのは、まだ若い頃の著者自身であったと知り、
美輪明宏、その人となりを知りたい気持ちでいっぱいになり、まず手にしたのが、
「愛の話、幸福の話」でした。
そして、この自伝です。
この歌の謂れを初めて知ることが出来ました。
それ以上に、美輪明宏、この素晴らしいお方の人生に、越し方に、深く深く感銘を受けました、、、
★★★★☆
若い頃、不遇の時代にも、故郷の異母弟たちに血のにじむような思いで送金し続けたのは、、、
継母が危篤のとき、意識が朦朧とする中で、血を分けた我が子ではなく、
継子である、兄の名前を呼び続けたその思いにこたえる為であったこと、、、
そして、故郷長崎に原爆が投下されます。
著者が目にした阿鼻叫喚の地獄絵図が、生々しく伝わり、胸をえぐられます。
やがて、戦争は終わり、米兵たちが上陸してきます。
豊富な品物を得意げにばら撒く彼らをにらみつけ、弟たちを引き寄せて大声で叫びます。
「お前たち、死んでも行ったらいかん、あいつらは仇(かたき)なんだから!」
以下に本文より、一部転記します、、、
鬼畜米兵と言われていたアメリカ兵を初めて見た著者は、
なんて美しい綺麗な鬼だろうと心を奪われます。
そして、、、
僕は、だんだんぼんやりと先生達や大人達が
僕たちに目隠しをするように騙していたのがわかってきました。
(バカな大人達、敵を識らないで戦争に勝てると思ったのか。
もっと国民全部が敵方のことを精しく識っていたなら、きっと負けることなんかなかったのに、
あいつらはあんなに沢山、美味しそうな食べ物を持って、綺麗なものを持っているのに、
僕たちは鶏の餌の大豆かすや干し南瓜で命を繋いでいたのだ。
女の人でも、ちょっと色のついた着衣を着たら、
非国民だと憲兵から顔が腫れあがるほど、ぶん殴られたのに。
あいつらは男なのに、あんなに美しい着衣を着ている。僕たちに目隠しをしていた奴らが、
あの大勢の人々を殺したのだ。日本人が日本人を殺したのだ。
僕たちが竹槍をこさえたり、睾丸の握りつぶし方の演習を必死になってやっていた頃、
こいつらは怖ろしいほど科学的な知性で原子爆弾を創っていたのだ。この悠々とした美しい姿で!)
「見ろよ、男か女か、わかんないぜ。あいつ、気色悪いぜ、全く」
「あんなマトモじゃないの見ると、ぶん殴りたくなるぜ」
「頭足りねぇんじゃねえかよ。とにかく、マトモじゃねえや」
・・・・・
マトモなアンちゃん達よ、
成る程、あんた方は、高い所からものを言えるだけの資格は充分おありさね。
心身共に健康美そのものだろうし、家庭は平和で愛情に満ちていようし、
学校でも職場でも優秀な成績だろうし、趣味も豊かで洗練されているだろうし、
友人知人には尊敬され愛され、自分たちもまたよく面倒を見、責任感も強いだろうし、
雅量も広いし、硬軟両派を備えているのでしょう。
そんな素敵なマトモなアンちゃん達よ、
まずその素晴らしい資格を充分備えた方からどうぞ、さあ、私に石をお投げなさい。
株で騙されて、その男を憎んで苦しんでいたとき、小林先生が、、、
「そうかい、それは、気の毒なことだったね。でもね、よく考えて御覧、騙されるからには、
騙される方にも、それだけの油断と欲があるんだよ。万事、人まかせなどにせず、
自分の力で身分相応に地道にやっていたとして御覧。誰からも騙されずに済んだはずだろう。
たとえ向こうが騙そうとかかって来ても、”ええ、私は、これで結構です。
自分なりに努力をしてみます“という気持ちでいたとして御覧。
相手は騙そうったって騙せないじゃないか。
相手に人を騙すという罪を犯させたたのはあなたの方だよ。」
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きぬえさん こんばんは。
私、この本も持っています。他にも子供に向けた憲法や平和の小さな本とかも。
そして、不思議なご縁で幾つかのエピソードも知っていますし、そのうちに彼が
同じ駒沢に越していらしたので、良くお見かけしました。
ヨイトマケの歌、初めて発表されて以来、心の中にいつも流れている歌です。
話は別ですが、私の母も禁止令にも拘らずパーマを掛けたり、モンペをはかないので、
婦人会(って言ってたかな?)の方々に家に押しかけられて、何度もお説教された
そうです。「戦争はね、負けて当たり前だったのよ」なんて良く言われたものです。
ここでは、いろいろと書きにくい事もいっぱいね。
三島由紀夫作品の演出へのこだわりも凄い方ですね!
今夜はこの辺で。
投稿: Tao | 2013年7月 2日 (火) 20:52
Taoさんのお母さまの反骨精神、、、あの時代に、、、
さすが、Taoさんのお母さまと、感心しきりです、、、
話しは少し違いますが、三島由紀夫の、
http://kinue-m.cocolog-nifty.com/17/2010/07/post-5d6c.html
ご存知でしょうか、、、
安部譲二の元妻のEさんから教えて戴いた本ですが、
これが、ちょっとおもしろかったのです~!!!
投稿: きぬえ | 2013年7月 3日 (水) 08:48
こんにちは。
「紫の履歴書」を購入しました。
現在、103ページを読んでいるところです。
二番目の母親と死に別れ、原爆で被災し、結核性腹膜炎を克服したところです。
この本を読んでみたいと思ったのは、斉藤孝氏が著書で同書について触れていたからです。特に三島由紀夫氏が序文を寄せいたことに興味をもちました。
さっそく読み始めたのですが、肝心の三島氏の序文は削られてました。残念でなりません。
三島由紀夫の序文、なんとか手に入れられないでしょうか。
投稿: George Walker | 2013年12月26日 (木) 17:51
ネットで検索してみたところ、一部だけ、ですが、ご参考までに、、、
序 三島由紀夫
私はつねに丸山明宏君のよき友人であったとは云えない。
不遇のときに人よりも厚く、
得意のときには遠くから見守る、
といふのが本当の友人である。しかし私は、
丸山君に対して不遇のときは遠くから見守り、
得意のときにはかうして序文まで書くといふ態度をとって来たことを、自ら認めなければならない。
これが「世間」といふものの基本的な態度であれば、私も、悲しいかな「世間」の人の一人として行動したのである。
・・(略)
「世間」とは何だらう。もっとも強大な敵であると共に、
いや、それならばこそ、最終的には、どうしても味方につけなければならないもの。
さういふものと相渉るには、政治学だけでは十分ではない。
何か「世間」に負けない、
つひには「世間」がこちらを嫉視せずにはいられぬやうな、
内的な価値と力が要る。
魅惑(シャルム)こそ世間に対する最後の武器である。
・・(略)
投稿: きぬえ | 2013年12月26日 (木) 20:29
きぬえさん、三島由紀夫氏の序文の一部を書き込んでいただき、ありがとうございます。
ところで、美輪明宏氏が三島由紀夫氏の序文を削ったのは、どういう理由だったか、わかりますか?
美輪明宏氏は「紫の履歴書」新装版のあとがきで、一部を三島氏の名序文として引用しています。
もちろん、「紫の履歴書」はそれ自体で素晴らしい作品であるのは間違いありませんが、文豪の名序文があるのとないのでは、大きく違います。こういうと、お叱りを受けそうですが、まさに三島氏の序文がないと、「画竜点睛を欠く」とさえいえるのではないでしょうか。美輪明宏氏が三島氏の極右的政治信条に対して嫌悪感をもっていたのは確かようで、自分の書が政治的に利用されることを警戒していたようです。
しかし、三島由紀夫氏が切腹自殺してから、もう40年以上経とうとしています。もっと別の角度から、三島氏が戦後日本に与えた影響を見詰め直してもいいのではないでしょうか。
個人的には、三島氏の極右思想は嫌いです。全く同情できません。しかし、どういうわけか、私は彼の文学作品は無論のこと、彼の随筆の類いも好きなのです。生身の人格と文字で表現される人格が全く変わった形で現れるのはよくあることではなのでしょうか。
個人的には三島由紀夫氏の名序文が復活して、「紫の履歴書」の再新装版が出版されることを願っています。
投稿: George Walker | 2013年12月27日 (金) 09:03
こちらこそ、いろいろ勉強できました。
ありがとうございます、(^-^)
投稿: きぬえ | 2013年12月27日 (金) 21:59