宮本輝著 ”蛍川・泥の河”
内容(「BOOK」データベースより)
戦争の傷跡を残す大阪で、
河の畔に住む少年と廓舟に暮らす姉弟との短い交友を描く太宰治賞受賞作「泥の河」。
ようやく雪雲のはれる北陸富山の春から夏への季節の移ろいのなかに、落魄した父の死、友の事故、
淡い初恋を描き、蛍の大群のあやなす妖光に生死を超えた命の輝きをみる芥川賞受賞作「蛍川」。
幼年期と思春期のふたつの視線で、二筋の川面に映る人の世の哀歓をとらえた名作。
暗く淀んだ泥の河。
そこには、残酷、不平等、未来、貧困、純粋さ、堕落、憧れ、、、
様々なものが、渾然一体となって浮きつ沈みつ流れてゆく。
★★★☆☆
以下に本文より、、、
「ほんまにいっぺん死んだんや。そらまざまざと覚えてるでぇ、あの時のことはなぁ。
真っ暗なとこへどんどこ沈んでいったんや。
なにやしらん蝶々みたいなんが急に目の前で飛び始めてなぁ、
慌ててそれにつかまったひょうしに生きかえった。確かに五分間ほど息も脈も止まってた・・・
わしをずっと抱いてくれた上官が、そない言うとった。
死んだら何もかも終わりやいうのん、あれは絶対嘘やで」
「もう戦争はこりごりや」
「そのうちどこかの阿呆が、退屈しのぎにやり始めるよで」
「(借りたお金を)返すのは、おとなになってからでええでがすか?」
と懸命に涙をこらえて言った。
「おうよ、ええともええとも。おとなになって金を儲けるようになってからでええがや。
返せるお金が出けて、その時わしがもう死んでおらんかったら、返す必要はないがや。
ただ、あんたがきょう、わしからお金を借りたということは、間違いのないことにしとくがや」
大森は二通の借用書を作った。
無利子で無制限、貸方が死亡した時は賃借関係は消滅するという但し書きを
大森は大きい字で書き添えて自分の判を押した。
「おばちゃんのできることは何でもしてあげるちゃ。商売が何ね。お金が何ね。
そんなもんが何ね。みんなあんたにあげてもええちゃ、、、」
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一時期、宮本輝の作品を読んでいた時期がありました。
「蛍川」は映画化もしていますが、ご覧になりましたか?廓舟で客をとるお母さんの役を加賀まり子が演じていました、ものすごくきれいで印象に残っています。
投稿: eiko | 2013年1月10日 (木) 20:44
映画化していることも知りませんでした、、、(^^ゞ
加賀まり子、妖艶でさぞかし美しかったでしょうね、、、!、
宮本輝は、勧められて、やはり最近ですが、錦繍を読みました。
もうずいぶん昔に読んだ、優駿がいちばん心に残っています。
投稿: きぬえ | 2013年1月11日 (金) 08:36