佐野眞一著 “あんぽん” 孫正義伝 ☆
内容紹介
ここに孫正義も知らない孫正義がいる。
今から一世紀前。韓国・大邱で食い詰め、命からがら難破船で対馬海峡を渡った一族は、
豚の糞尿と密造酒の臭いが充満する佐賀・鳥栖駅前の朝鮮部落に、一人の異端児を産み落とした。
ノンフィクション界の巨人・佐野眞一が、全4回の本人取材や、
ルーツである朝鮮半島の現地取材によって、うさんくさく、いかがわしく、ずるがしこく……
時代をひっかけ回し続ける男の正体に迫る。
“在日三世”として生をうけ、泥水をすするような「貧しさ」を体験した孫正義氏は
いかにして身を起こしたのか。
そして事あるごとに民族差別を受けてきたにも関わらず、なぜ国を愛するようになったのか。
なぜ、東日本大震災以降、「脱原発」に固執するのか――。
全ての「解」が本書で明らかになる。
そう、孫正義という人は、どこか、いかがわしい、、、
その正体が知りたいと、手にとった一冊。
著者は、その彼の出自から、徹底的に真の彼の姿を炙りだそうとする。
「東電OL殺人事件」でも舌を巻きましたが、
どこへでも労を厭わず足を延ばして取材なさるのには、ひたすら頭が下がります。
そして、どこか、ふてぶてしい著者を、わたしもまた、嫌いではないのです、、、
★★★★☆
以下に本文より、、、
「北朝鮮の拉致問題は、許せない悪いことですよね。
でも過去には、それのずっと大規模なことを日本がやったんです。
わたしたちの祖先は、何万人規模で強制連行されてきて、炭鉱や鉄道づくりに働かされたんです」
大竹によれば、孫正義は朝鮮部落のウンコ臭い水があふれる掘っ立小屋の中で、
膝まで水につかりながら、必死で勉強していたという。並みの根性でできることではない。
この根性が、叩かれても叩かれてもへこたれない孫正義の強さの秘密である。
と同時に、そのど根性は、人を辟易させる理由ともなっている。
・・・中一の担任は、、、
あの子は勉強も出来ましたけど、決して自分だけ先に進むということをしないんです。
落ちこぼれる恐れのある子がいると、一緒の目線で勉強するの。
要するに、自分より下の子を引き上げるのね。これはなかなかできないことですよ。
ましてや転校生でしょ。それがいきなりリーダーになるんですからね。
言葉づかいも丁寧だし、性格も穏やかだし。あの子のおこった顔など見たことがありません。
・・・ソフトバンクの前身の日本ソフトバンクを立ち上げた際、
融資の一億をシャープの佐々木氏に依頼した時、彼は、、、
「私はすぐにシャープの人事部に電話を入れ、私の退職金を計算してもらった。
そして自宅の評価額も調べた。
その結果、、両方合わせれば、何とか一億円になることがわかった。
これが万一焦げついても何とかなるだろう。
そんな計算をして、孫くんの保証人になる覚悟を決めたんです。なぜそこまでしたかですか?
自分でもよくわかりません(笑)。孫くんに、それだけの魅力があったとしか言いようがない。
彼に賭けてみよう。孫くんには、人をそんな気持ちにさせてしまうところがあるんです」
・・・人々が乱暴な言葉遣いをする話を聞き、、、
こういう話を聞くと、孫家の家風がいかに独特かがわかる。
両班の末裔というプライドだけは強烈だが、言葉遣いはこれに反して品がない。
品がないどころか、人を傷つけることも容赦しないという意味では下賤である。
孫一家が鳥栖で子供たちから石を投げられるなどの差別をされた一因は、
案外そんなところにあったのかもしれない。
・・・結婚のいきさつを聞かれて、、、
孫の答えはあくまで正直だった。孫の成功の要因は種々あげられるだろうが、
この正直さがまず筆頭にあげられるだろう。
・・・孫という苗字を名乗るにあたって、親戚一同は、、、
「お前、それだけはやめろ」と言うんです。在日が日常生活で差別されるケースはだいぶ
減ってきたけど、就職するとか、金を借りるときには、間違いなく差別されるぞ、
孫の名前では銀行は絶対金を貸さないぞ、お前が考えているより、ハードルは十倍あがるぞ、
何で、お前はわざわざ好んでその難しい行くんだって猛反対するんですが、
いや、おじさんたちはそう言うけど、孫という本名を捨ててまで金を稼いでどうするんだと
言いました。それがたとえ十倍難しい道であっても、
俺はプライドの方を、人間としてのプライドの方を優先したいと言いました」
・・・御用ライターが書いた、
孫正義の物語はことごとく、“青雲の志”に彩られ、一点の曇りも、
誰からの援助もない独立自尊のストーリーとなっている。
その臆面の無い青春譜は、読む者の顔が赤らむほどである。
しかし人間はおあつらえ向きの物語に生きられるほど都合よくはできていない。
孫正義は今から約百年前に、故郷を食い詰めて海峡を渡ってやってきた朝鮮人の末裔である。
祖母は残飯を集め豚を飼って一家を支え、
父は密造酒とパチンコとサラ金で稼いだ金をたっぷり息子に注いで立派な教育をつけさせた。
孫一家にとって、在日三世の正義は何よりの誇りだった。
・・・
在日問題を見て見ぬふりをしたり、
元在日の孫に批判にもならない差別的メールを投稿するみっともないマネは、
もういい加減やめにしよう。
それは、日本人はやはり尻の穴の小さな島国根性的民族だったのかと、
世界中からバカにされるだけだからである。
孫正義はやはり、この祖母にしてこの孫あり、
この父にしてこの子ありという三代の在日の物語のなかを逞しく生き抜いてきたのである。
・・・あの震災のとき、、、
「僕は福島に行く前日、西日本を中心に十七の県知事に直接電話でかけあって、
合計三十万人分の被災者の受け入れ枠をとっていたんです。
佐賀県だけで三万人。避難民が二十数万人というから、
じゃあ三十万人分、屋根付き、畳付き、風呂付きで、無償で受け入れます。
食事も病院も学校も、ぜんぶ受け入れ準備をしますと。
そのうえで福島に乗り込んだ。僕はただ理想論を言ってるんじゃない」
麻生財閥を興した麻生太郎の曽祖父、麻生太吉は、朝鮮から大量の労働者を集め、
筑豊炭鉱で働かせて巨万の富を築いたという。
・・・孫正義の父、三憲と会う役をしていた著者だが、、、
やれやれ、また悪い癖が始まったか。
三憲は今の今まで広がっていた青空が、
一天にわかにかき曇り、雷鳴と共に篠つく豪雨が降ってくるような男である。
その心変わりの理由をいくら忖度しても始まらない。三憲とは要するにそういう男なのである。
これほど付き合いにくい男もいないが、これほど興味をそそられる男もいない。
わたしはそんな三憲が嫌いではない。
というより、天賦の才能とはそういうものだと思って、そんな三憲をむしろ評価している。
玄界灘をはさんで二つの祖国を持つ男は、
在日を毛嫌いする日本の保守的エスタブリッシュメントに敗れ去って、
“故国”韓国に尻尾を巻いて逃げ帰るのか。それとも韓国を足掛かりにしてアジア、
そして世界の孫正義として雄々しく羽ばたくことができるのか。
孫正義は、インターネットビジネスから、東日本大震災をきっかけにして、
専業の主軸を脱原発の自然エネルギーへと大きく舵を切った。
この男は日本を救う英雄なのか、それとも一族の過剰なリビドーを受け継ぐ稀代の怪人なのか、
それとも時代をひっかき回すだけの迷惑男なのか。
日本の将来の方向も暗示するその答えは、そう遠くないうちにわかる。
それまで私たちは孫正義という男から目を離すことができない。
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孫さんの物語は興味深いですね。
投稿: よし@お金持ち研究 | 2012年11月13日 (火) 16:46
名残り雪に一首
八重ざくら
季節はずれの
大雪に
夢まぼろしか
恭順のしろ
あがさクリスマスより
しろは白、城を掛けて詠んだとか
復興支援よろしくお願いいたします!
投稿: 会津太郎丸 | 2013年4月23日 (火) 05:28